Riinagisaのブログ

読みたい人が読めばいいよ。私は好き勝手するから。

母と

就職してから2週間。

ろくに家族に声を聞かせていない。

 


昨日、母から電話があった。
昼間から何度も、何度も。


すれ違いを繰り返し
21時になってようやく母の声が聞こえた。


引っ越しにかかる書類や、 光熱費などの書類の整理をしている時だった。
私はそれらの作業を片手間に着信した。

 

陽気な高い声で

いつも通り脱線に脱線を重ね、長話になる母。


結局のところ何度も電話をかけてきた用事は何なのかと急かしてしまった。

 

 

 

 


「大丈夫かな?って思って。」

 

 

 

 

 

 


私は強がって
「こっちは充実しとるし、 びっくりするほどにホームシックにもなっとらんけん。
無理して急いで来る必要もないし、 長らくはそっちに戻らんかもしれん。」
とつっけんどんな返事をしてしまった。

 

 

無音。

 

 

 

ただ、その間には母の
寂し気な空気だけが電波に乗っていた。

 

沈黙の後、苦笑いを浮かべる声色で、母は
「…うんうん、じゃあ明日私も仕事やけん。ここらで電話切るね。 」と残し、いそいそと会話をとぎらせた。

 


ああ、なんてひどいことを言ってしまったのか。
心配してくれる人の愛をつっけんどんな態度で返してしまう、 浅はかさ。


そろそろ反抗期とかいう言葉では済まない。
電話を切ると、 冷蔵庫の音だけが耳に流れ込む空白の部屋で一人佇んでいた。

 

明日はきちんとごめんなさいと言おう。
きちんと生活の様子を報告しよう。

 

 

 


そう、今日はもうその明日なのだ。
目が覚めると、無性に母の顔を見たくなった。
家族のグループチャット内のアルバムを開いた。
母が抱いていたのは、家族で可愛がっていた犬。
死んでしまった犬。
心拍の止まった硬直した犬を抱きかかえる母。
家族の誰よりもその犬を愛していた。
写真に写る母の目には、涙が溜まっていた。
耳に垂れる白髪が、気にかかった。
悲しみの過去に、今現在の母を重ねてしまった。

 


布団から出てテレビをつけた。

 


2年前の今日、熊本地震で267名が犠牲となった。熊本は、母の実家の近く。

 

画面には、当時大学であった娘を持つ母親が映る。「生きていたら、今頃大学院で研究をしていたのだろう。」 と語る。

 

生きる私に残された未来はあとどれくらいなのだろう。
あなたに残された時間はあとどれくらいなのだろう。

 

久しぶりに電話をかけてきてくれたのは勇気のいる決断だったのかもしれない。


だって2週間、きっと私からの着信を待ってきていたのだから。

 

寂しい思いをさせてごめんなさい。
私も犬も居なくなった実家で貴女はどのように生きていますか。


貴女がいなくなる前に
私は、感謝をちゃんと伝えられるかな。


伝えなきゃ。
今日はたくさん話を聞くよ。
今日は話をするよ。
夜が来るまでは。
丁寧に今日を生きよう。

ありがとう、お母さん。