最後の夜には
空港横の外灯もない細い道路横の未舗装の砂利道。いつかの雨が作った深い水溜まりを避けるように車を止め、私達はタイムリミットまで静かに時間を共有した。
「あと24時間後には雲の上を飛んでいるね」
なんて、地元で最後の夜らしい語らいをしていた。たまに飛び立つ飛行機のジェット音に耳を傾けながら。
助手席の背もたれを倒して星空を見上げた。
遠く旅の途中で見たそれよりか、ずっと見える星の数は少なかった。私の過ごした町の日常なのだと胸をなでおろす。
今日は、二度とこないとっておきの日だから。
愛おしいあの人に、特別にとびっきり可愛くしてもらったの。
後頭部から薫る花の色が
私の嗅覚を満たす
私の「いつも」と違う香り。
そんな幸せに溢れた夜に
覆い被さる君。
ただ2人の呼吸だけをとらえて。
目を閉じた。
夜桜の淡い色が
暗闇に千切り絵のように添えられる3月23日のおはなし。