たばこ
「あ、このタバコ前にあの人が吸ってたっけ」
なんて、ひさびさに見たそれ。
440円を店員に手渡す。
「ああ、500円玉しかないじゃん。」
ぼそっと心の中で思う。
地道に500円貯金を進めている私は
すこし残念な気分になった。
駅を降りて、ファミマの前のいつもの灰皿へ向かう。
封を開ける、中の包みを取る。
そうそう、このバニラの甘い香りだ。
火をつける
まずかった。
がんばって最後まで吸い切ろうと思った。
でも、すぐに嫌になった。
「まだ長いけど。」
円柱形の灰皿の暗闇へ、
まっすぐに落とし込んだ。
ジュッ。
火が水に入る音がした。
ボロボロの箱になってしまった
いつものタバコを取り出し、吸った。
1本しか吸っていない
残りのこの甘ったるいヤツをどうしよう。
渡す人すら
今の私にはいない。
いつの間に、私はひとつの銘柄に縛られるようになっていたのだろう。
少し寂しく思った帰り道の
星は
二つだけ弱い光を放っていた。