ただいま。戻りました。
まるまる一週間家を離れ
行き先も告げずに旅に出ました。
帰ってきた日は、強い雨が降っていて寒い日だった。旅の大荷物を抱えた私は、マンションの他の住人に紛れて、待つことなくオートロックをくぐり抜けた。
ポストに入れてもらっていた父の鍵。
皮のキーホルダーは酷く年季が入っていて、ぼろぼろになっていた。
無口で真面目な彼はとても大切に一つのものを使う人間です。
私もそうありたい。
一方の私は新しいものを好む傾向があるからさ。
帰宅をすると家は真っ暗でひんやりとしていた。
灯りの点かぬ玄関には、新しい母の靴。
「晴れた日が来たらおろすんだ」とニコニコしてお披露目して来た母の靴が玄関に出ていた。
もうこの世にいない愛犬を抱いた私と兄が写っている写真立てがトイレに飾られていた。
私の卒業式の為に祖母から借りてくれたお着物が自室に置かれていた。
片付けてくれていたのだろうか、私宛の手紙や私物が学習机にどっさりと積まれていた。
旅の荷物を片付けなくちゃとうんざりしていたけれど、帰る私を迎えるために家を片してくれた母に感謝を覚えた。
たった一週間。
たった一週間で変わる生活空間。
次に帰るときには何が残っているのだろう。
さて、雨降りの今日は
散らかった学習机の整理をしよう。
旅の記録を忘れぬように残しておこう。
長くなる旅へ向かう準備に取り掛かろう。
そうして、綺麗になった机で
こっそりと初めての感謝の手紙なんて書いてみよう。
ただいま。戻りました。